大学英語教育、何が変わったのか? 第2回 ― 清水裕子 先生(立命館大学 食マネジメント学部 教授)

2020年以降オンラインでの授業が行われ、大学の英語教育の現場に様々な変化が起きたと思われます。どのような変化が起きているのか、実際に大学で英語の授業を担当されている先生へのインタビュー。第2回目は清水裕子先生(立命館大学食マネイジメント学部教授)にお話を伺いました。

どの学生にも疎外感を与えないような授業

———現在、先生の大学では対面授業されているとお伺いしましたが、どのようなタイミングでオンラインから対面に移行されたのでしょうか。

まず、コロナがいろいろと取り沙汰されるようになって、2020年の4月の初回の授業は普通に行いましたが、その後急変し、休校期間を少し経て、ゴールデンウィーク明けぐらいから全面オンライン化になりました。

私の担当している科目はインプット中心で、テキストを読んだり、あるいは内容を聞いてディスカッションしたりという科目で、2020年度の春学期はオンディマンドで実施しました。秋学期からは、授業時間になると学生さんたちがZoomに集まって授業に参加するという形で進めてきました。

2022年度の4月からは、一応全面的に対面授業になってきています。私が現在所属する立命館大学の食マネジメント学部は2018年にできた学部です。英語系ではないので必修の英語科目は少ないですが、レベルごとに統一教材、統一シラバスでプログラムを展開しています。全面的に対面授業の方向ですが、担当される先生によっては、ご事情によりZoomやあるいはオンディマンドにされているケースもあります。

———ご担当されている授業の科目を教えていただけますか。

主に私は1回生の科目が中心で、名称としては、Study Skills α1、Study Skills α2と言って、文字と音声のインプットをもとにした科目です。2回生の必修科目でポスタープレゼンテーションなども取り入れているEnglish Workshopという科目も今年の春学期に初めて担当しました。

———インプット中心といいますと、リスニングとリーディングを一緒にやられているのですか。それとも別々にやられているのでしょうか。

教材は様々な内容を読んでもらうものが中心で、その内容をもとに基本的にできるだけ英語で理解を進める科目です。いろいろな形でリーディングの内容を聞かせたり、私の方から関連する別のコンテンツを持ってきたりして、できるだけ英語での文字情報だけではなく音声情報も与えて、それをもとにしてディスカッションをしたりアウトプットにつなげています。

———わかりました。対面授業をされていて、コロナ前と先生の授業のやり方などで、異なったことなどがございますか。また、どのような点で異なっているといえるでしょうか。

対面授業を再開したといっても、留学生の人で入国できない人がクラスに数名いたりすると、20数名が目の前にいて、数名がZoomで入ってきているということになります。やはりZoomで入ってきている人たちに、疎外感を与えてしまうようなことがあってはいけないと気にはなります。クラスメイトにまだ会ったことはないけれども、授業は一緒に受けているわけなので、どのようにして彼らにクラスにいる雰囲気を与えることができるか解決策がないままで進行してしまい、また学期の途中から入国できてクラスにやって来た学生もいたので、クラス運営がすごく難しかったです。

それから、全員対面で参加していても、やはりソーシャルディスタンスをキープすることも考えなければいけないので、近くの人とペアワークする際にも、ちょっと離れという感じでなかなかやりづらかったです。
ただ、基本的に、授業の中で何を目標にして、何をやらなければいけないということに関しては、コロナ禍であっても変化はないわけで、結局、少しぎこちない授業になっていたという気はします。

———先生としても今までの授業よりいろいろな意味でかなり労力を使われる感じですか。

そうだと思います。

———そういった授業を受けられる学生さん側の変化のようなものを、何かお感じになられますか。

学生のフィードバックを読むと、やはりクラスメイトと会えたことの喜びを感じているようです。もっといろいろとディスカッションをしたり、話したかったということを、最後のフィードバックで書いてきている人たちが何人かいました。「だったらもっと早く言ってよ。」と言いたくなりました。やはり対面で何か人と関わるということは、重要だと感じました。

———学生さんの授業での反応とかは変わってきましたか?

やはり顔を見て、わかっているのか、わかってないかというのを感じ取れます。Zoomだとカメラのオンを強制できないので、見事に全員オフのままです。ですから、私は四角いボックスに向かって話していて、わかってくれているかどうかというのもわかりません。授業が終わって「質問がある人はZoomに残ってください。」と言うと、毎回、何人かが残ってちょっと話したりすると、「あ、ここがわかっていなかったのだな。」というのが、その時にやっと気づいた次第です。

———それが対面ですとすぐにわかる。

はい。Zoomだったら、ほんとに参加しているかどうかも、カメラオフになっているのでわからないのです。ですから、名前を呼んで回答してもらおうと思っても声が聞えないと、機械のトラブルなのか、本人がいないのかもよくわからなかったりします。おそらく接続のトラブルだろうと解釈して進めますが、2020年度の初めてのZoomの時は、学生も慣れてないので、家での接続がうまくできなくてお父様が登場されたこともあったりしました。

必ず参加しなければいけない学習の場面を与えられる

———本当にたいへんでした。そういった形でオンライン授業から対面に移ってきたわけですが、まずオンライン授業のメリットとディメリットをどのようにお考えか教えていだければと思います。

まず、オンディマンドの授業にしたとき、パワーポイントを作って授業を全部録音していたので、それがすごくストレスフルでした。私が一方的に喋るわけですから、聞く方も大変だと思い、間に休憩時間を入れたりとかの工夫はしました。作成側としては、いつもの授業準備よりも負担が大きかったのは確かです。

プラスの面としては、これは学生からの意見ですけれども、わからなかったところを何回も聞き直したりすることができたということです。学習するということに関して、オンディマンドは、本当に学習する気がある人にとってはすごく良かったのかもしれません。ただ、毎回いろいろな課題を出すわけですが、例えば授業内だったらわかったかどうかをすぐにフィードバックとして感じることができますが、オンディマンドだったら、視聴の最後に課題や感想をいついつまでに提出するように指示するので、タイムリーなフィードバックが得られないという点がディメリットのひとつだと思います。課題を出したらできるだけ2、3日中に、たとえ一言でもフィードバックするようにはしていましたが、それがまたプラスの負担にはなっていました。

オンラインの場合は、やはり通学できない学生にとって、自宅などから授業に参加できるプラス面はあると思います。それから、ブレークアウトルームで、グループごとに作業をさせることで、必ず何か参加しなければいけないという学習の場面を与えることができたのは良かったと思います。

オンラインのディメリットになるのか、やはり共同作業というのがすごくやりにくいです。今回、2回生のポスター発表のクラスは対面で実施できたのですが、オンラインで、もしもZoomだったら、なかなかやり難かっただろうなと思いました。

オンラインのメリットになるかもしれませんが、初めてのプレゼンテーションを音声ファイルで提出させた授業がありました。そうすると、みんな短いプレゼンですけれども、結構練習して提出してくれているというのがわかりました。1対25名程度のクラスですけれども、私が1対1で一人ひとりに話しかけているという感覚を、何とか与えなければいけないという工夫の仕方が足りなかったっていうのが、私の反省点になると思います。

———わかりました。一方で対面授業もやはりメリットとディメリットがあるかと思いますが、オンラインと比較して、今まで感じられなかったようなこともいろいろあるかと思いますが、そのあたりもお話しください。

やはり対面授業の一番のメリットは、学生のリアクションがわかることです。ディメリットとしては、学生側は聞き流しているのではないかなということです。オンディマンドだったら聞き直しができるけれども、対面の場合1回きりで終わってしまうというのが、当然のことではありますがオンディマンドと比べた場合のディメリットです。

やはりリアクションがわかるということと、共同でいろいろな作業をするということで、クラスのコミュニティの形成に大きく貢献できると思います。特に1年生の場合は、いろいろな地域から学生さんたちが集まってきていて、自分の所属する<場>というのを、早く見つけてさせてあげるべきだと思っています。それが自分の家とか下宿、アパートからアクセスすると、自分が一体どこのコミュニティに属しているのかが、なかなか見いだせなくなってしまうようです。2020年の5、6月ぐらいに、確か英語で簡単な作文の課題を出したクラスで、この一週間で外に出たのはスーパーに行った1回きりだったという英文があって「うわぁ、かわいそうに。」と思ったことがありました。だから、コミュニティの形成という点では、やはり対面というのはすごく大切だと感じました。

———それでは次の質問でございますが、オンラインで授業が行われるようになって以来、多くの大学で学内のLMSがたいへん重要な役割をして、いろいろ活用されている先生が多かったと思いますが、先生はどのような形でLMSをご活用になりましたか。

学習支援システムを以前から立命館では導入していて、私も授業内外のコミュニケーションで使っていましたが、このコロナ禍でもかなり役立ちました。まず、ハンドアウトを配るということができないので、PDFやWordのファイルをアップして渡すことができました。リーディングが中心の教材では、単語のリストも事前に渡しておいて、ユニットが終わるごとにクイズをペーパーレスで実施しました。具体的には、学習支援システムのクイズモードで、制限時間を設定して回答してもらいました。多肢選択形式にしたので、自動採点もでき、問題の作成には時間がかかりましたが、事後処理が楽になり、その分一人ひとりへのフィードバックやコメントを書く時間に回すことができるようになりました。

それから、レポート提出も学習支援システムの中のレポートという機能があり、それを使うようにしました。いろいろなアナウンスメントも、掲示板とかコースニュースのようなところで出すと、誰が読んだか読んでないかを確認できるので、その点は助かりました。ただ、やはりそういった情報を全然見ない学生がいます。必ず1回生の最初に、メールの送信の際には、大学のメールアドレス活用するように、またメールや学習支援システムを頻繁にチェックするようにと言っていますが、やはりなかなか見てくれない学生がいます。見てくれない学生に限って、どうしても早く連絡しなければいけないことがあったりします。他の先生も結構同じような悩みを抱えていらしたようです。

———ちなみにそういった学生さんにはどういう形で連絡をなさいましたか?

仲の良さそうな学生に、もしも連絡できるなら、メールを確認するように伝えてもらうようにしました。

———学生さん同士で連絡をお願いするわけですね。それは大変です。先生はLMSをすごく活用されていることがわかりました。

はい、助かっています。

カリキュラムデザインの見直しの必要性

———LMSのお話を伺ったわけですが、それ以外にICT関連で授業などに活用されているものはございますか。

ICTと言ってよいのか、どの授業もパワーポイントを活用しています。また内容に関連するようなことは、YouTubeなどからの情報も含め、授業内で提示するようにしています。BYODで全員がPCを授業に持参させている学部もあるかもしれませんが、私が所属している学部はまだそこまではいっていません。もしもBYODになれば、例えば、授業の中で教材がオンラインで見られるようでしたら、音声にすぐに飛んだり、動画の方にすぐ行くことができるようになるかと思いますが、まだそこまでは行っていません。ですから、パワーポイントを活用するのと、あと、オンライン学習が付いている教材に関しては、期限を決めて、これだけやりなさいということを指示し、授業外学習を促しています。

———授業中ではなくて授業外で。

はい。

———先生に弊社刊行の電子教科書『Creative Reader』セレクト版をお試しいただきました。たくさんの先生から電子版と印刷版の両方だったら使ってみたいというご意見をいただきました。私どもはそれから電子版と印刷版のあるハイブリット教科書という形で販売させていただくことにいたしました。先生によって、いろいろな活用の仕方があるかと思いますが、電子版と印刷版の両方があるメリットは、どのような点だとお感じになられていますか。

1週間に90分の授業という限られた中で、英語力をつけるというのは難しいので、いかに授業外学習を促すかということになります。その点では動画とか音声の視聴が、例えばどこかをクリックしたらすぐに見られるという教材だと、授業外での学習を促しやすいです。

例えば、この課の音声ファイルはここにありますよと示したり、今は使う人が少ないと思いますが、CDを使うようにと指示しても、やはり実際の行動へのハードルが高く、簡単なこととはいえ、なかなかやってくれません。ですから、その点でハイブリッド教材はすごくメリットになりますし、そのメリットをメリットとするためには、学習習慣をつけさせるということが、まず大切になってくるかと思います。私たち教員がハイブリッド教材に慣れるということも必要なのですが、実際に使うのは学生なので、学生にこうやるとこんなことができて、こういうプラスがあるのだということをなんらかの形で示して、習慣化させることが大切だと感じます。

マイナス面はあまり浮かばないのですが、読解教材の場合、例えば一つの文章だけで終わるのではなく、それに関連する資料を見るといった時には、やはり限られた画面の中で複数のファイルやサイトを見て作業をするというのには無理があると思います。これからのDXの時代で、様々なことが進んでいく中、課題はたくさんあると思います。

———貴重なご意見をいただき参考にさせていただきます。それでは、最後の質問になります。文部科学省がオンライン授業に、今までかなり規制があったのを、卒業単位の上限緩和の方向で動いているというお話を伺いました。オンライン授業を、今後活用する機会が増えるとしたら、先生はどのような形で活用されたいとお考えでしょうか。

まず、先ほども言いましたように、私たちのところは、プログラムとして、例えば1年生の一つの学期には3種類の科目が緩やかに連携しているので、一つの科目だけでオンラインがどうのこうのとか、プログラムへの付け足しや代替措置ではなく、カリキュラムの設計の見直しということが必要になってくると思います。

ですから、今回コロナというものの影響で、Zoomやオンディマンドクラスとかを加速度的に導入し、実施してしまったわけですが、少し腰を据えてカリキュラムデザインの見直しということをしていかなければいけないと思います。
立命館で長く勤めていますけれども、15、6年前にeラーニングを導入したいと言ったときに、大学側からeラーニングのプログラムの学習効果があるのかどうかを示すように言われました。英語のプログラムの中でeラーニングは一部ですので、それだけの効果を示すというのは難しかったわけです。

今は学習効果を検証している内に、いろいろなことがどんどん進んで行ってしまうと思います。今回の経験で、私たち教師側やカリキュラム設計する側のICTリタラシーの必要性というのをすごく感じました。私なんかはマニュアルを見たり、人に聞いたりしながら、やっとついていけたかどうかぐらいなのです。

リタラシーに関しても、常にアップデートしていかないと、英語だけではなく、大学としての様々な方針についていけなくなってしまうと思います。小手先のことだけじゃなくて、やはり腰を落ち着けて考えていかないといけないと感じています。

ですから、どういうふうに活用させたいかという方針というものは、私自身はまだ全然持っていません。例えば、翻訳ツールを例にとると、最近すごく発達してきています。英語の上位レベルではうまく活用されている大学もあるのかもしれませんが、そういうものこそ、学部やあるいは大学としての方針のようなものを、はっきり打ち出してもらって、ある程度それに乗っかった形で進めていかなければいけないかなと思っています。

———基本的には、先生としてもそういったカリキュラムの中にうまく組み込めればよいなとは思っていらっしゃるのですね。

はい。食マネジメント学部は2018年にできた学部ですが、設計する時には、例えば、経済産業省の社会人基礎力とか、21世紀スキルとか、いろいろなことも参照し、チームで働く力ということも考えながらカリキュラム考えたわけです。チームで働く力の中に、その時は、みんなが対面で何か作業しているということをイメージしたわけですが、今度はZoomなどのオンライン上でのチームということも、これからは想定する必要があるかもしれません。そういったこともどのように組み込めるのか、あるいは組み込まないのかも含めて考えていかなければいけないと思っています。

———そういった大きな全体のカリキュラムの中で、考えていく大学もたくさんあると思いますので、先生のお話はたいへん参考になるかと思います。

(2022年9月8日のインタビューをもとに作成)