大学英語教育、何が変わったのか? 第3回 ― 小室夕里 先生(中央大学 法学部 教授)
2020年以降オンラインでの授業が行われ、大学の英語教育の現場に様々な変化が起きたと思われます。実際に大学で英語の授業を担当されている先生へ、どのような変化が起きているのか、インタビューをいたしました。第3回目は小室夕里先生(中央大学法学部教授)にお話を伺いました。
「何となく」行ってきたことを、全て具体化・言語化
一般的な英語科目、1年生のゼミ、そして外書講読という、専門の文献を英語で読めるようになるための基礎を作ることを目標とする授業を担当しております。
2020年度4月に、授業実施は全面オンラインになりました。原則、1年間まるまるオンラインでした。2021年度もオンラインが続きましたが、一部希望する教員は、感染対策を取った上で対面授業を実施することが可能になりました。学生に登校することを強制することはできないので、その際、ハイブリッド授業が生まれることになりました。2022年度より、授業は基本的にすべて対面で行うことになっています。ただし、過去2年間で蓄積されたオンライン授業のノウハウもありますので、オンラインで提供する方がより学習効果が高いと見込まれるような科目については、若干試験的なところもありますが、オンラインで提供することを継続しています。
学内では原則としてマスクを着用することになっていますので、非常に単純なことですが、一番気をつけているのは、より明瞭にゆっくり発話することです。学生さんが聞こえない、聞きづらくてストレスを感じるなどということを避けるために、話し方が少し変わったと思います。これは本来、マスクの着用がなくとも、教員として心がけなければいけないことですが、マスクがあることによってより気をつけることに結びついていると思います。コロナ禍以前も、様々なICTを使おうと思えば使えました。ほとんどの教室に、小さくともモニターもありますし、Googleのツールも存在していました。実際、ICTツールの活用を得意とする方は様々なものを駆使して、いろいろな工夫をされていたと思います。私はICT偏差値が低めでしたので、学内のLMSは活用していましたが、自分から積極的に新しいものを導入することはありませんでした。
しかし、2020年度に授業実施をオンラインに移行せざるをえず、不得手であろうがなかろうが、授業の質を担保するためにICTツールを利用するしかありませんでした。大学のハード面でのサポートも手厚くなりましたので、ICTを活用することに対する心のハードルが下がりました。これは多くの教員に言えることかと思います。
コロナ禍以前は、授業を進める時に、その場の状況を見て、指示を出していました。一つのタスクを行ってもらうにしても、具体的な時間の制限を設けずに様子を見て調整していました。リアクションペーパーなどを書いてもらう時も、学生も周囲の様子を見て、書く分量の目安や内容を感じとったりしていたと思います。
それがオンラインになると、それまで「何となく」行ってきたことを、全て具体化・言語化しなければいけませんでした。ですので、自分の授業の見直しにはとてもなりました。
このタスクには、どのような目的や意図があるのか、かけるべき時間やプロダクトの最終形について、細かな指示を文字化しなければなりませんでした。何かを書いてもらう場合には、字数を設定しないといけませんでした。私は字数を設定するのは、本当は好きではありません。中身が良くて簡潔というのが好きです。しかし、字数を設定しないと、本人は手を抜いているつもりがなく、一行だけで終わってしまう人もいましたので。
今までやってきたことを全部、仕様書に仕立て上げるようで、大変な労力がかかりました。けれども、それを1度行うことは、授業の改善に資することになったのではないかと思います。
対面授業でも、音声を大切にされている先生は少なくなかったと思いますが、一人ひとりの発音等をきちんと確認するのは、よほどの少人数クラスでないと難しいです。それが一人ずつ提出をさせることができるとなると、チェックもできますし、学生もしっかり取り組むことが求められます。
人と人とのケミストリーが生まれにくい
メリットとデメリットは絶対的なものではないというように思っています。大方の教員、学生にとってメリットであることも、一部の教員、学生にとってはデメリットになり得ます。またその逆というのもあると思います。
学習意欲がある学生さんは、対面でもオンラインでもメリットを活かしてきます。学習意欲がなければ、どちらの形式でもデメリットが目立ってくることになります。きれいな切り分けというものは存在しなのではないかなというのが、最近強く思うことです。
ただし、それでもオンラインのメリットは、物理的に移動がなくて済むということで、通学に時間がかかる学生は、これを最初のメリットに挙げます。オンラインのデメリットとしては、学生同士の交流が限られてしまうことです。また、教員にとっては、学生の反応が見えにくいです。人と人とのケミストリーが生まれにくい。これが生まれやすいのが、対面の最大のメリットと言っていいのかもしれません。
授業を執り行うことにおいては、対面でもオンラインでもそれぞれのよさを活かして行えばよいと思いますが、オンラインですと授業の内容だけに終わりがちです。通信課程ではなくて通学課程なので、大学生活全般をより充実させるための活動や情報が、通常であれば、様々な形で学生には届きます。対面の方が、大学が用意しているリソースを活用して、有機的な繋がりが授業と授業や人と人の間に生まれやすいように思います。
manabaを使っています。私が最初に飛びついた機能は、オンラインで資料配布ができることです。それ以前は、原稿を用意して、それを自分で印刷し、授業で配布していました。欠席者の分は取っておいて、翌週渡さなくてはならなかったり、メールに添付して送らなくてはなりませんでした。それがmanabaに資料をポンと上げてしまえば、学生がそこからダウンロードして見られるので、本当に楽になりました。もちろん、授業中に書いてもらうために、印刷したワークシートなどを用意することもありますが、ペーパーレスが相当進んだと思います。他には、コースニュースという、全員にメールでお知らせをする機能が付いています。英語学習に関係するような学内でのイベントや講座、その他学生さんにとって有益な学内イベントであるとか、課外講座のお知らせだとかをリンクやチラシを付けて送ることができるので、よく使います。後は、提出物の管理です。レポート課題など、書いて提出してもらいたいものなどは、そちらに上げてもらうようにしています。
Googleのツールを使用しています。Googleドキュメントですと、複数の人が同時に書き込みができるので、授業中に共同作業をその場でやってもらえるということがあります。先日、同僚の先生から伺って活用してみたいと思ったのは、Googleのジャムボードです。模造紙にペタペタと付箋を貼るような感じで、ポスターをみんなで作ることができます。授業中にある程度まで課題に取り組み、その後課題を引き続いて教室外で行う時に、以前であれば、いつどこに集まってというスケジュール調整が大変でしたが、オンライン上で共同作業ができるというのは、グループワークに便利であると思っています。
はい。ライティングの授業でも使っていました。Wordファイルですと、まず提出してもらって、それをダウンロードして、変更履歴をONにしてコメントを入れて返して、また提出してもらうという手間がかかるわけですが、Googleドキュメントであれば、文書にアクセスして、編集モードでコメントを入れるだけです。
対面の時よりも学生の積極度が上がっていた印象
大きいと思います。ある授業で使用している教科書は、大学の図書館にeBookとして入っていますので、中央大学の学生であれば、無料で閲覧でき、かつ1部限りですがプリントアウトもできます。けれども、ほとんどの学生は印刷せずにオンラインで閲覧します。私は授業に、紙の書籍を持っていっています。画面上でテクストを見ていて、手元に紙で欲しくならないのかなと思ってしまいます。本当にもう全然、感覚が違います。
現在、実際に所属学部で行っている活用方法としては、合理的な配慮を必要とする学生、通学が困難であったり、自分のペースで学習することが必要な学生さんに、オンデマンドの英語の授業を提供しています。組織として、そのような必要に応えるというのが一つあると思います。また、人数が少なければ、ライティングの授業もオンラインとの親和性が高いと思いました。ライティングの授業では、共通テーマのもと、学生がそれぞれ自分の興味関心のあるトピックを設定して、エッセイを書きます。最終的には個人作業です。ピアエディティングなども行っていますが、お互いの提出物をチェックし、コメントをつけて返すというのは、オンラインでもできることです。ライティングの授業は、一番質問が多く、対面の時よりも学生の積極度が上がっていた印象があります。
(2022年9月30日のインタビューをもとに作成)