英語教育の新しい試み 第2回 ——ESSC開始のお知らせ——

ESSC (Extremely Short Story Competition)が一般社団法人グローバル・ビジネスコミュニケーション協会(GBCJ)主催で2022年より年4回行われることになりました。

GBCJ代表理事の本名信行先生(青山学院大学名誉教授)にESSCの意義などについて、ご寄稿いただきました。



本名信行
青山学院大学名誉教授 GBCJ代表理事

(一般社団法人)グローバル・ビジネスコミュニケーション協会 (GBCJ) は、企業や大学の発信型英語教育の進展を願い、2022年より年4回のESSC (Extremely Short Story Competition) を主催します。Extremely Short Storiesとは、自分の好きなことをきっちり50語で書く英文作品のことです。フィクション(ストーリー)、ノンフィクション(エッセイ、レポート)など、なんでもかまいません。ESSCの詳細と応募に関する情報は協会HPにてご確認ください。http://www.gbcj.jp/essc/

Writing Extremely Short Storiesの意義

これは英語を書く練習として、実に有益な方法を思われます。これを開発した人は、アラブ首長国連邦(UAE)のZayed大学で教鞭をとっていたPeter Hassall教授でした。同氏はザイド大学でこれを実践するなかで、多くの作品を指導し、その作品集を出版しています。次は、その1例です。これを読むと、アラブ人の雰囲気が感じられます。

1. My wishes

If anyone asks me what I would wish for? I will tell you that I can’t tell you, because if I want to tell you my wishes the paper of the book and ink of the pen will finish before I finish. Allah is the one who knows my wishes.

日本の大多数の学生は、長文を書くのに困難と感じるようです。しかし、このような短い文章の作成を目標にすることによって、多くの学生が自己表現の練習をやってみようと思うのではないでしょうか。そういう意味で、50語作文の練習はコンテストにしなくても、日本人学生の英語表現の訓練に最適と思われます。

私は現役のころEnglish Writingの授業で、このExtremely Short Stories Writingを導入したところ、学生はすぐに興味を持ち、たくさんのESSを書いてくれました。次は大学1年生による本邦発の50語作品の1例です。自分の気持ちをストレートに書いています。大学生くらいになると、英語を覚えようとする以上に、英語を使おうとする意気込みが大切になります。

2. Because of you

My voice does not mean anything. My thoughts do not mean anything. Nobody cares about me. But you, you treat me as something special. Because of you I can smile. Because of you I can feel safe and protected. Everything is because of you. Mom I’m here because of you.

この事例が示すように、学生はけっこう楽しみながら英語を使い、自分の気持ちや考えを表明するものです。彼らは、自分のこと、身のまわりのことを書きながら、日本語ではいえないことが英語ではいえるということを発見します。これは英語が自分の「もうひとつのことば」であるという気づきにつながります。

50語の制限には、これといった理論的根拠があるわけではありません。ただし、語数を制限することには、教育的意義があります。作者は自分の作品を制限字数内に収めようと、語彙や文法を工夫します。これは英語を自分のものにしようとする努力の一環なのです。また、ESS(C) は、短いながらもひとつの作品を書くという意識を高めます。そのため、自然にIntroduction-Development-Conclusionという文章の流れを体得すると思われます。短文作品の訓練はこのインフォメーションフローの方法を定着させるのに、有効と思われます。

これまでのESSC

日本「アジア英語」学会では、こういった英語学習・運用法の意義を認識して、2006年から2012年にわたってESSC の全国ウェブコンテストを主催しました。同様に、The Japan Times STは2013年に独自のESSCを主催しました。ともに、日本人学生や市民による多くの作品を集めました。日本の学生や市民は英語で自己を表現する機会が与えられると、強い意欲を燃やします。まるで、いいたいことがいっぱいあると、いわんばかりです。次は、高校生の作品です。

3. The Cicada on a Summer Day

The cicada lay on its back in the corner of the road. Its silvery stomach gave off a dull glimmer under the setting sun. Its delicate wings now rested on the ground, tired and forgiven. It lived one summer; I had lived fifteen. With luck, I shall live some more.

Its delicate wings…tired and forgivenの想像力は、実に見事です。最後の寿命についての抑えた言い方は、なみならぬ思索の成果でしょう。日本人の多くは子どものときにセミを追いかけた記憶があります。そして、生命のはかなさを知ります。この日本人的なエトスがここに投影されています。

ある民間の英語教育プログラムでは、独自のESSCを利用して、学習者の自己発信力を高めようとしています。自作のプログラムで学習した英語項目を単なる知識としてとどめるのではなく、それを自己表現のなかで「使う」ことで、自分のものにするのです。また、書くことは想像力や創造力を働かせることになるので、その育成にもつながります。

英語は使えば使うほど、上達します。ですから、英語教育では、英語使用の機会をたくさん提供する必要があります。ESSC はその一例です。なんといっても、短いので短時間で書けます。しかも、いくつも書けるので、生産的な訓練としても有効と思われます。大学生なら1日に1本、高校生なら1週に1本くらい書けるでしょう。数か月でもよいので、やってみてもらいたいものです。

現在の英語の国際的普及を考えると、英語は日本人にとって、もはや外国語ではありません。私たちは英語を日本人の additional language として、しっかりと認識する必要があります。もっというならば、English is a Japanese language for international communication.と考えて、英語の運用能力(working command of English)を高めることが重要です。ESSCはその有効な方法です。