大学英語教育、何が変わったのか? 第1回 ― 水本 篤先生(関西大学外国語学部教授)
2020年以降オンラインでの授業が行われ、大学の英語教育の現場に様々な変化が起きたと思われます。これから数回にわたって、実際に大学で英語の授業を担当されている先生に、どのような変化が起きているかインタビューをした記事を連載いたします。第1回目は水本 篤先生(関西大学外国語学部教授)にお話を伺いました。
授業内と授業外ですべきことに対する意識の変化
うちの大学は対面が比較的早く再開され、2020年9月からは全面的に対面授業でした。語学の授業は、2020年の前期がコロナで一番直撃を受け、急にオンラインになり、ほぼ前期はずっとオンラインでした。学内のLMSを使ってのオンデマンドや、リアルタイムのオンライン授業を行うよう大学から連絡がありました。全員が前期の間にLMSを使い、だいぶ使い方にも慣れました。前期が終わってからも結構LMSを使うようになり、さらにLMSが活用されるようになった印象があります。それまで対面授業で小テストとか、いろいろなタスクのシートをたくさん用意していたのですが、それらの配布をあまり行わない方がいいと2020年9月の後期の段階で言われていましたので、できるだけ配布物などは出さず、LMSで回答してもらう形を取りました。
その回答がLMS上に出てくるので、回答をもとにいろんなフィードバックを行いました。今まではシートだったので、なかなかリアルタイムでのフィードバックが難しかったのですが、そういうものも「こうすればよかったんだ」という気づきが起こった感じです。ポートフォリオ的に授業内での記録が、かなりいろいろ残りやすくなりました。
もちろん今までもプリントを配布して、記入させて回収して、それをある程度の期間貯めて、最終的にまとめてポートフォリオ的に評価を行うこともやっていましたが、それをオンラインで全部完結するのは、かなり大きな変化だったと思います。
学生は意外と対面がいいと言う人が多いです。コロナの関係でリアルタイムのオンラインや、オンデマンドで授業をやったこともあって、さきほど言ったようなタスクや教科書の問題を単純に解答したり、内容理解の読解問題などを授業の外に出しやすくなった感じです。それを答え合わせも全部やって、授業内では言語を使うことにフォーカスしてやるようになりました。
これは語学の授業の話ですけれど、大学院の方では、院生はかなりオンラインの方が好きみたいです。オンデマンドは場所を選ばないし、意外と私も気づいていなかったのですが、こうやってお話していると、その場では理解している感じです。私もオンデマンドの授業をするようになって、例えば自分の話していることに字幕を付けたりしてみたのです。そうすると意外としっかり伝わってない可能性があることに気づき、反省しました。
実際学生に聞いてみると、院生なんかは講義形式のところは、動画で見られるとすごく助かるということでした。受ける側の意識では、結局オンデマンドやオンラインでできることがあるのに、わざわざ授業時間でやるのは、どうなのかっていうことじゃないかと思います。そういう可能性もありますよっていうのは、すごくひしひしと感じます。その辺に受ける側の変化があります。
語学の方は、そこまで学生が「こうしてほしい、ああしてほしい」と言わないのですが、大学院生であるとか、講義形式のものに関しては、「できたら動画で」というものもあります。
コロナの時、2020年、2021年に対面でできなかったとき、オンデマンドの動画を作ったのですが、それを今年前期の授業に大学院で見られるようにしたら、すごく喜んでいました。かなり授業内と授業外で、自分たちがすべきことみたいなところの意識は変化していると感じます。私たちも変化していますし、学生も結構変化していると思います。
やはりさきほど言ったように、LMSの活用は全学的に聞いていても、すごく増えていると思います。増えているだけではなくて、使い方もいろいろと進化しているように感じます。使う側が慣れていますので、LMSにこういう機能があったら、それを上手く使うことがかなり出来てきていると思います。印象ですけれど、それはあります。
あと、今でも濃厚接触者になったりする学生もいますので、その場合はハイブリッドで授業に参加できるようにする工夫をされていると聞いています。
例えば、スピーキングとかライティングで、最後にパフォーマンスのテストがあるその日に、コロナの陽性や、濃厚接触者になったときには、受けられないので、オンラインで対応したりします。そのようなことは結構フレキシブルになされます。もともとうちの大学では、クラブやサークルで休むときに、学生は一応休みの届けを出しますが、それを受理するかとか、プラスそれを考慮にいれるかどうか、担当者次第です。コロナに関しては、先生方すごくしっかりとその辺を考慮して対応されている感じがします。
LMSやクラウドサービスの使い方の変化
オンライン授業のメリットは、時間とか場所に関係なく学習できるという点です。デメリットは、学生の表情などを直接確認できないことです。教室内でその場の雰囲気で理解出来ているかどうかというところに合わせながら解説をしたり、それに基づいてサポートをやっていたということに、オンラインでやるとすごくそれが鮮明にわかりました。そのあたりの理解度、空気を読みとるようなところがやりづらいです。
オンデマンドの場合、逆に動画を見て、例えば講義形式のところだったら、さきほど言ったように飛ばしたりすることもあるので、どれくらい理解しているのかわからなかったりします。いつでもできるので、たくさん授業を取っている学生の場合、課題に取り組むのを忘れてしまったなどの報告がちらほらあります。他の授業の課題があり、うっかり忘れていましたので、提出期限を延期してくださいなどと言うこともあります。
それぞれメリット、デメリットがあると感じがしています。語学の先生方は、やはり語学の授業なのだから、オンラインではなく対面でやるべきという意見が多いのですが、それぞれのメリット、デメリットを分かった上で使えれば、いろいろな可能性がオンラインにもあるのかなと思います。
メリットとしては、やはりコミュニケーションのしやすさが一番大きいと思います。学生に直接語りかけたり、反応を見ることによって、伝えるべき内容が伝わっているかを感じ取りやすいところが大きいです。
デメリットは、どうしても時間と場所が決められていることです。あと、対面の場合には、語学の授業で日本人の学生は、英語で積極的に発言することは少なく、しっかり聞いているようにみえるので、わかって黙っていると感じてしまうのです。ただ参加しているというパターンの子たちも、30~40人の中には出てきてしまいます。いるだけで理解していると、教える側も、教わる側も勘違いしている可能性があります。そういう意味で、例えば知識ベースのところはオンラインでやり、パフォーマンス的なところは対面授業でやるなど、ある程度使い分けをしていくと、より効果的になると思います。
コロナになったタイミングで、他のたくさん大学で使われていて、関大用にいろいろアレンジしたLMSを利用するように、大学から要請がありました。すべての授業で学内のLMSを使い、ルービックの共有、自己評価、他己評価など課題の提出もすべて行っている感じです。
提出について言うと、ファイルサイズが2MBまでしか対応していないので、大きい場合はOffice 365のWordとかExcelとかはURLを共有します。さきほど言っていた学生側の変化で言うと、クラウドサービスみたいなものが意外と使える子が多くなった感じはすごくします。
コロナ前までは、基本的にOffice 365を、大学で使っていたのですけれど、URLで共通してファイルを一緒に作業するとか、そういう考えは学生側も教員側もあまりありませんでした。協同で何か作業することになったときに、もちろんGoogleも使いますけれど、関大のLMSとOffice365を使います。そのあたりの使い方が、すごく学生側がうまくなっているので、いろんなことがやりやすくなっている感じはします。
コロナ前もですが、各種ウェブサイトなどです。ウェブサイトもですが、SNSなども学生のタイプに応じて使い分けるようにしています。
SNSを授業のプラットフォームとして使うには、いろいろと問題があります。例えばLINEなどは、どうしても個人名が出てしまったりしますので、その辺の情報管理なども考えながらやっています。授業で何かのサービスを使うので、アカウントをそれ用に作ってくださいと言うのは、なかなか難しかったりします。プライベートの部分と授業の部分は切り分けて考えられるよう配慮はしています。
ICTの観点から言うと、使えるものは何でも使おうという感じです。ただ、その分アカウントやクリックする数が増えて、結局たどり着かない学生が出てきます。そういうところは、かなり配慮しているので、さきほど言った学内のサービス、Office 365、各種ウェブサイト、SNSを上手く組み合わせているのが今の段階かなと思います。
以前から使っているツールでも、例えばPowerPointなどは、音声の録音や録画もできるので、スライド自体の画像で提示し、それに対して説明を学生が自分で録音してMP3で提出することや、動画でプレゼンテーションをして、MP4で提出することもできます。すごく使いやすくなっているので、新しいサービスでいろいろやるより、今まで使っていたサービスでいろいろな使い方を工夫しながらやっているところが大きいです。
反転学習で英語学習に大切なことのための時間が取れる
印刷版と電子教科書両方があるというのは、学習者も教員側も好みに応じて使えるのが大きな利点だと思います。私はずっと教室に自分のパソコンだけしか持って行きません。その中に自分でスキャンしたテキストなど全部必要なものを入れていますが、学生側はずっと教科書を持って来ているのです。
今までは、何かタスクや課題、ライティングなどをさせるときには、プリントでやっていたのですが、それをLMSに変えるなどしているので、ハイブリッドという形式がすごくやりやすいだろうなと思います。
電子教科書とLMSを組み合わせることによって、教科書の内容理解とかライティングなどは、学習者が自分で行う活動になってきて、教室内ではそこへのフィードバックや、それを使った活動やタスクとの区別がつけやすいので、すごく反転授業が進めやすくなるだろうということが大きなメリットとして感じています。
そのあたりがどこまで統合されるかは、これからだと思うのですが、電子教科書版の方にいろいろ回答選んだら、それがLMSに保存されるとか、いろんな可能性はあると思います。そうなると教師側の準備がすごく楽になると思います。教科書にある内容理解の4択のABCDをわざわざLMSに書くとか、教科書の電子ファイルいただいてそれをコピペするとか、すごく手間がかかるので、組み合わせることによって、すごくスムーズにハイブリッド形式の授業が進めやすくなり先生側の負担も少なくなります。
もし電子教科書だけでやってよいとなると、例えば今「Bring Your Own Device」BOYDをうちの大学でもやっていますが、ある程度タブレットやコンピューターを自分で持ってきているので、電子教科書を使ってやっていくようになると、教科書を持ってこなくてもよくなり、学生側にもいろいろメリットが生じる可能性があると思います。ただ、今でも紙で見たいと言う学生はいるので、そういう子たちのニーズも踏まえながら進めることができるこの形式は、かなり大きなメリットじゃないかなと思います。
今うちの大学の授業時間は、90分です。その中に入れてしまうと、どうしても時間がなくなってしまうことがあります。例えば、授業の前にリーディングの箇所を読んで、内容理解問題もやると、それが全部LMS上に残リます。そこの部分で、必要があれば説明します。教科書を読んでそれで終わりではなくて、教科書の内容をもとに、自分の考えをまとめてライディングするなどの部分に時間をかけることができます。またライディングまでやってくることにして、そのフィードバックに授業内で時間を取ることもできます。さらにそこまで進んでいると、後は読んだ内容に関連した記事をウェブサイトやオンラインで探してきて、それについてどう思うか意見を言うとか、その内容をサマリーするなどができます。教科書だけではない活動が、タスクとしてすごくやりやすくなります。
内容理解だけではなくて、それを使って何をするかという英語の習得で一番大切なことが、反転授業の形でやりやすくなります。もちろんフォームにフォーカスした発音の指導などにも、時間はその分取れます。そのレッスン、ユニットで重視している内容にフォーカスして、かなりそこに教室内で時間を取ることができるのが、反転学習のかなり大きな利点かと思います。
結局、語学の授業も大学院の専門の講義も両方とも、知識技能の部分はオンラインであれば提供しやすいと思います。また動画にしてあれば、次の年とかも、前期後期と内容が同じだったら、その動画を見てもらうことができ、こちらの負担も減ります。結局同じ内容をやるのであれば、ある程度しっかり内容を固めた上で動画にしておいて、それを見てもらう方が断然効果的だと思います。
反転授業やオンライン、オンデマンドだけの授業を増やすことによって、カリキュラム全体をすごく充実させた計画が可能になるのではないかと思います。自分自身もできるだけそういう形で活用したいと思います。
どうしても動画は、作るのに時間がかかるのですが、その分リターンもある程度あると思っています。動画を作ると、上手くそれを活用して、次の年などに改善したりしながら、より充実した教育が出来るようになりたいと思います。上限緩和があり、オンライン授業を活用する機会が増えるとしたら、そのようしたいと考えます。
(2022年8月17日のインタビューをもとに作成)