英語教育の新しい試み 第1回 ——グラフィック・レコーディングで学ぶ“Little Women”『若草物語』ワークショップから——

オンラインで2月19日に行われたワークショップ「グラフィック・レコーディングで学ぶLittle Women『若草物語』」に参加させていただきました。『若草物語』を自分を含めた参加者がどのように受けとめたか知ることができ、グラフィック・レコーディングの活用の仕方や効果も学べ、『若草物語』のミニレクチャーありと、たいへん充実した内容で多くのことを学ばせていただきました。レポートにまとめましたので、ワークショップを進めてこられた鶴見大学の草薙優加先生と深谷素子先生へのインタビューと合わせてお読みください。

ファシリテーターの稲村理紗先生の自己紹介の後に、オンラインでのコミュニケーションに慣れるために、まず「今回『若草物語』にどの媒体で触れましたか?」という質問が出されました。Zoomのスタンプ機能を使って参加者から回答が出てきました。小説と映画が同じくらいの人数でした。次はチャットを使った「あなたが好きな登場人物は?」という質問で、次女のジョーが圧倒的な人気でした。

次は「グラフィック・レコーディングとは?」で、稲村先生が具体的なサンプルや事例を提示しわかりやすく説明されました。グラフィック・レコーディングとは、話し合いの要点を、文字や図、絵を用いてリアルタイムで描き出し対話を活性化する手法とのことです。サンプルを見ながら、実際に使われた時の反応などを伺うと、使いこなせるようになると本当に効果的なやり方だということがよくわかりました。

グラフィック・レコーディングの効果がわかった後は、各自がグラフィック表現を練習しました。カラフルなペンを持って人や図を書く練習をしました。次に要約の練習として以下、グラフィック・レコーディングを使ってまとめる練習をしました。

私は図を描くのが苦手で苦労しました。聴く時のポイントとして、稲村先生が言われた、どの発言も尊重し、平等に受け取るということが印象に残りました。描く時のポイントとしては、発言の要点を抽出して描くということにも納得しました。

そしていよいよ個人ワークで次の課題が出されました。

A4の用紙をYの字型に3分割し、①、②、③についてグラフィック・レコーディングを使って20分で描いてみようという課題です。

ワークが終わると、作品への考えを共有するために、ブレイクアウトセッションで4人のグループ分かれました。まずテーマ①について、各自が自分の考えをまとめた用紙を見せながら1分程度で話します。他の人はその話をA4の用紙にグラフィック・レコーディングで描きます。それが一通り終わったら、描いたものを見せ合いながら、対話を深めました。テーマ②、③についても、グループのメンバーを変えて、同じように話し合いました。参加者は学生、社会人で年齢、職業、性別も様々なので、いろいろな意見、感じ方を知ることができました。グラフィック・レコーディングの形でまとめられているものを見ると、その人がどのように感じ、何が言いたいのかわかりやすいですし、コミュニケーションを取るきっかけになることが実感できました。

ワークと話し合いが終わると、鶴見大学文学部英語英米文学科の渡辺一美先生によるミニレクチャー「『若草物語と読書―ジョーは何をどう読んだか』でした。作品の登場人物たち、特に作家志望のジョーが作品の中で読んでいた本の解説を伺いました。『若草物語』が書かれた時代背景などもわかり、とても興味深いレクチャーでした。

最後にこの日の振り返りをして、ワークショップが終了しました。3時間半のワークショップでしたが、いろいろ新しい学びがあり、あっという間に時間が経ってしまいました。とても貴重な経験をさせていただき、どうもありがとうございました。

※ワークショップ終了後、稲村理紗先生に「対面とオンラインでの参加者の反応や進行方法の違い」というレポートを書いていただきました。オンラインや対面でワークショップ等を行う場合にたいへん参考になりますので、下記よりダウンロードしてお読みください。
https://creaidlearning.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/9b28aac1dab91ce59d86431987ad3d84.pdf


インタビュー(草薙優加先生・深谷素子先生)

——グラフィック・レコーディングの講座は、今回オンラインでは初めて行われたと伺いましたが、対面ではいつからどのような形で行われてきたのでしょうか。

(草薙先生)―鶴見大学では新しい教育改革事業を行ないたい時に予算がつく学長裁量経費というものがあります。平成28年度に英語多読推進プロポーザルが学長裁量経費として採択され、事業を始めました。2年目の平成29年度から、先日お世話になった稲村理沙先生にファシリテーショングラフィックのワークショップを、図書館の多読コーナーで行っていただきました。それが昨年度まで続きました。それ以外に、図書館の多読図書の整備、朝日新聞の記者によるノート・テイキングの講座やポップコンテストなどを行ってきました。

本年度は図書館が使用できず、また大勢で集まるのが難しいので、稲村先生と十分な事前打ち合わせをし、オンライン・ワークショップを実験的に行いました。本年は、大学のイベントではなく私共の研究活動の一環として科研費でイベントを行いました。参加者も学生だけでなく、編集者、言語教育に関わっている教員の一般の方々向けに実施したという背景がございます。

——今までは、英語の絵本を読んでこられたようですが、今回はなぜ『若草物語』を題材にされたのでしょうか。

(草薙先生)——今までは5、6冊ずつ英語の絵本を私共が選定して、学生にどの本を読みたいか希望もとりました。ある程度希望にそった形で、各グループで4、5人が同じ本を読んで語り合い、最後にワークショップ参加者全体に向けて報告という形で行ってきました。私共が手持ちの本を図書館に持参し、ある期間置いておいて、学生の皆さんに行ける時に行って何回でも読んで結構ですという方法で事前準備しました。

今年は、図書館に行くことは感染予防という観点から、勧められない状況でした。また遠くから参加される方もおり、今までのやり方が無理になりました。深谷と話し合い、皆さんで同じ1冊の本を読んで語り合うシェアード・リーディングが好ましいのではないかと判断しました。

それで何を読んだらかいいか、まず私共2人が読みたいと考えたのが『若草物語』でした。さらに、本作は英語の原著、翻訳本、Graded Readers、映画やアニメなどさまざまなメディアで触れることができ、アクセスしやすい作品であるというのが選定理由です。『若草物語』は長年いろいろな世代に読みつがれた名作です。私たちが作品を選ぶという時に大切にしているのは「語るべきことがある」ということです。この作品は、近年映画化され、再度読み解いていこうという気運が高まっていて、特にジェンダーの面から注目されているようです。

(深谷先生)——『若草物語』にしようとした理由に、最新の映画が夏に公開されて、非常によい映画だったことと、私が担当する英語文学概論の授業で私が70名ぐらいの受講生に『若草物語』を読む課題を出したということもあります。既に触れている作品でよく知っているので、ワークショップに参加するためにわざわざ新しい本を読まなくてもよいので、参加しやすいと思いました。また一般の参加者にとっては、子供時代に必ず読む作品のため、みなさんがよく知っているだろうと思いました。一方でジェンダーの問題が非常に社会問題化していて、女性に対する意識が低い社会で女性がどう生きて行くべきかという問題と『若草物語』を結びつけた形でワークショップを行えば、皆さんからいろいろ意見が出てくるだろうと思いました。
——英語の絵本を取り上げられてきた理由をおおしえください。
(草薙先生)―学生の皆さんは、多読を進めるためにGraded Readersを読みたくさんのインプットを得て、言語能力を高めようとするのですが、継続をするのが難しく、しばしば数ヶ月で読むことを止めてしまいます。また読む楽しさや、読後に他の人と意見交換をしたりすることに学生たちは慣れていないようです。そこで絵本を使ったワークショップを企画したところ、いろいろな意見や考え方があることを体験するのには、Graded Readersより絵本が非常に優れているということを発見しました。絵本は簡単な言葉で書かれて、ページ数も少ないのですが、根源的な人間のテーマを扱っているものも多く、大学生の知的な好奇心を満たすことができます。また、絵本は英語圏の子供たちが読むことを想定して書かれているので、必ずしも英語が簡単ではなく、異文化の面からはオーセンティックな読書体験をすることができます。参加した学生から毎回とてもよかったという感想が聞けました。
——どのような絵本を今まで取り上げましたか。その理由をおおしえください。
(草薙先生)——古典的絵本The Little Houseの他、SilversteinのThe Giving TreeやThe Missing Pieceはよく取り上げてきました。ポストモダニズム絵本と呼ばれるVoices in the Park、It Might be an Apple、I Want My Hat Back、The Doubtful Guest、The Lost Thing、Cicada、など、いわゆるポストモダニズム絵本と言われる作品を取り上げました。これらの作品群は、問いを立てやすいですし、いろいろな解釈を導き出すことができます。共感と同時に最後までよくわからなかったというような違和感を覚えることもあります。繰り返し読んでみたいという気持ちにさせるような普遍的な問題や現代的な課題も扱っています。翻訳が出ているものがありますので、学生が訳しプロが翻訳したものと比べさせることもできます。
(深谷先生)―ポストモダニズム絵本については、海外ではすでに2000年代頃から論文が発表されています。絵本に特有な予定調和や教訓、主人公の成長などの前提がくつがえされたり、語りを読者に意識化させるような特徴があります。文章だけでなく絵にもいろいろな意味やメッセージが込められていて、多様な解釈が生み出されます。これらの特徴はグループディスカッションに向いていて、参加者同士のインタラクションを促すことが期待できます。
——英語多読学習を継続していくのに、英語の絵本を読むことがどうして有効なのでしょうか。
(草薙先生)——もっと他の作品も読みたくなり、動機付けにつながります。また、単に「読む活動」を行うだけではなく、読んでいるうちに、自分の内と外に向かって意味の探求ができるようになります。絵本を読み進める過程で自分にとって忘れられない一冊を見つけることを希望しています。読書を通して、英語の力だけでなく、他者の立場、違う時代や文化を想像することができます。グループ活動を通じてコミュニケーションが苦手と思っている学生が、他者と協働したり、意見を発信したりする能力が少しずつ開発されるのも魅力です。
——先生方は英語多読学習のアクティビティと英語絵本を紹介したウェブサイトを運営されていますが、どのような意図で始められたのでしょうか。
(深谷先生)ー科研費共同研究の一環としてホームページを作ることになりました。科研費では研究成果を報告書や本にして出版することが求められるのですが、私たちの場合はホームページを立ち上げて活動を紹介することにしました。「多読を活性化するための活動」が研究テーマのため、英語絵本の紹介と授業で実践して効果のあったアクティビティを紹介するホームページを作成しました。
https://www.tsurumi-u.ac.jp/research/20200201/#other (英語多読研究会HP)
——今回のワークショップでも行われた「ワールドカフェ」という学習方式は、まだあまりなじみがないと思いますが、どのような方式で、どのような効果があるかおおしえください。

(深谷先生)——ワールドカフェはグループディスカッションの一方式で、参加者がグループの前に大きな模造紙を広げて、話し合った内容をメモしながらディスカッションをします。グラフィック・レコーディングと重なるところが非常に多い活動だと思います。ディスカッションの内容が可視化されるというのが大きな特徴だと思います。

もう1つの特徴は、グループの移動の仕方です。グループディスカッションの際に、テーブルで複数の「島」をクラスの中に作るのですが、10分ほど最初のグループでディスカッションしたら、全員一斉に立ち上がって別の「島」に移動します。自分の好きな「島」に移動していいのです。これを何回か繰り返します。グループが固定せず、常に新しいメンバーとグループを組んで同じテーマについて話し続けます。異なる「島」に移動すると、そこには模造紙が広げてあり、さっきまで話し合っていた人たちの書き込みがそこに残されています。その書き込みを読むことで、さっきまでそのグループにいた人とのインタラクションも模造紙を通して可能になります。90分で3回、4回とグループをぐるぐる交代すると、クラスのほぼ全員と話ができます。グループ活動で、グループのアタリハズレがよく問題になりますが、このやり方ですと常にグループが変わるのでストレスがなく、自分で移動すれば主体的にグループ作りができるメリットがあります。最終的に模造紙に多様な意見が1つの作品としてできあがり、全員で共有できます。

—— グラフィック・レコーディングの講座を続けてこられ、学生からはどのような反応や感想がありましたでしょうか。

(草薙先生)——昨年、対面型で行った感想は以下のとおりです。

  • マーカーの使い方やファシリテーション・グラフィックスの有用性がとてもよくわかった。練習できそうな場所があればやってみたい。
  • これから仕事をする上でも使える技だと思った。将来後輩に何かを教える際、ぜひ使用したい。
  • 人の話はあまり相手には入っていかないため、絵、ジェスチャーなどの目に入ってくる情報が大切だということを知った。
  • 私自身はノートを取るのが苦手で、視覚的な記録を取るのはとても難しく感じたが部分的には自分でもできるかな?と思える点、取り入れられそうな点もあった。他の人が書いたものを見るのが楽しかった。
  • 英語の本は難しいと思ったが、グループで1つのテーマについて深く考えることができた。読めば読むほど想像が膨らみ楽しかった。
  • 他の人の意見もより深く知ることができて本当に面白かった。また参加したい。

発見したことは以下のとおりです。

  • グラフィックを使用することで、脳に植え付けられることが発見でした。
    目的を持って色を分けて書く、簡単な絵を描くことでよりわかりやすくなる。
  • 話し合うだけだと情報や内容が流れ去ってしまうが、視覚的に記録することで見やすく、わかりやすくなる。話の流れが追いやすい。
  • 自分1人で読むだけでは考えつかない考察がたくさんあり、話しながら紙に書くことで想像が膨らんだ。
  • 自分だけでは思いつかないような発想がグループワークで発見できた。

集約すると、様々な色ペンで書くという身体動作から生まれる「身体知」、皆で考えて意味を探る過程から得られる“collective intelligence”「知の集積」など、ただ黙って読む読書とは違った何かが立ち上がってくる気がします。また、別の副次効果もあります。数十人の学生がいるとタイプや性格も違いますし、得意不得意もすごく違います。英語の教室では言語の操作、特にアウトプットする能力が優れている人が評価されがちです。しかし、グラフィック・レコーディングを用いると、アイデア出しが優れている人、それを拾い上げて発展させることができる人、人と人をうまく結びつけるコーディネーション能力がある人、情報を整理し記録するのが得意な人、イラストなどで視覚化することが得意な学生などが、活動に貢献できます。イベントとしてのワークショップは1回だけですが、年間通して似たような活動を続けていくと、クラスの雰囲気がとてもよくなります。

——グラフィック・レコーディング講座のよい点をいろいろ伺いましたが、難しい点がございましたらお聞かせください。
(草薙先生)——時間がかかるという問題があります。また準備がたいへんです。事前課題を出し、当日は模造紙やペンを揃えて、机の配置をしなければなりません。授業内で行うとしたら、そのような制約があります。あとはファシリテーターの力量が大事になります。当日参加している方たちが、今どういう状態か、何に困っているか、何ができているか、どのような足場かけが必要かを瞬時に見極めなければなりません。このように難しい点もありますが、乗り越えて得られるメリットは非常に大きいです。

(深谷先生)——グラフィック・レコーディングの講座そのものについてではないのですが、グラフィック・レコーディングを教育現場で使った事例を一つご紹介させていただきます。小説のあらすじを8コマ漫画でまとめるという活動です。8コマ漫画も、以前のグラフィック・レコーディング講座で稲村先生に教えていただいた技です。文学の授業に応用してみましたが、これが非常に効果的でした。以前は文字で書いた要約を友達が説明していても、頭に入ってこない様子だったのですが、グラフィック・レコーディングのスキルを応用して8コマ漫画という形で可視化し、教室の書画カメラで共有すると大変分かりやすいという反応が得られました。今年はオンライン授業でしたので、Zoomを使って共有すると、さらに効果的でした。

8コマで選んでくる場面が、学生によって微妙に異なります。ある学生が選んだ場面を別の学生は選んでいなかったり、誰も注目していない場面を選ぶ学生が出てきたりします。そういうときには、なぜその場面を選んだのか説明してもらうことで、8コマ漫画を起点に小説の読みを深めることができて楽しかったです。ビジュアル世代と言われる学生たちに合った学習方法だと感じました。

——グラフィック・レコーディングの講座以外にも、英語多読や読書教育を推奨される試みを精力的に行われていらっしゃいますが、どのようなことをされていますか。

(深谷先生)——鶴見大学での活動として大きく3つあります。1つはブックカフェを運営しています。私が週に1回オフィスアワーにブックカフェとして研究室を開放し、多読を継続したい学生のための指導と、本について話をしたい学生のための居場所づくりを行っています。今はZoom上のブックカフェに週に1回来てもらって、おすすめ本の紹介や、人によって何を次に読んだらよいか違うので、その指導などを行っています。

2つ目は100万語多読の学長表彰です。元々は学長裁量経費事業の一環として、多読学習を活性化するために、100万語達成したら学長に表彰してもらうという事業を始めました。学長が非常に積極的に賛成してくださいまして、毎春、教員が読書記録を確認して100万語達成者を確認し、達成語数を記載した表彰状を作成し、学長より直接授与する表彰式を行っております。今年はオンライン表彰式でしたので、表彰状を画面共有で映して行いました。

3つ目がポップコンテストです。図書館主催で行っています。今年は、横浜そごうの紀伊國屋書店で展示してくれるまでに発展しました。かなり大きなスペースをとっていただきました。このように大学をあげて英語多読や読書教育を推進しています。

(2021年2月26日のオンラインでのインタビューをもとに作成)


*以下の論文と著書は、今回のワークショップやインタビューの内容の背景を詳しく知ることができますので、ぜひご参考にしてください。

草薙優加・深谷素子・小林めぐみ「英語多読教育におけるマインドマップの効果と課題」https://jaila.org/journal/articles/vol001_2015/j001_2015_038_a.pdf

草薙優加・深谷素子・小林めぐみ「ワールドカフェ式ディスカションの分析:書き込み記録から見えて来ること」
https://jaila.org/journal/articles/vol005_2019/j005_2019_039_a.pdf

Kusanagi, Y., Kobayashi, M., & Fukaya, M. (2020). An effective approach to inspire readers: introduction to stimulating picture books in extensive reading. Proceedings of the fifth World Congress of Extensive Reading, which was held at Feng Chia University, Taichung, Taiwan, August 9th-12th 2019. 95-105.
https://jalt-publications.org/content/index.php/jer/article/view/498

深谷素子『本を読まない大学生と教室で本を読む:文学部、英文科での挑戦』(比較文化研究所ブックレットNo. 17、神奈川新聞社)